第68回カンヌ国際映画祭 脚本賞受賞
監督・脚本ミシェル・フランコ(『父の秘密』)
主演ティム・ロス(『海の上のピアニスト』)
2016年12月2日(金)DVDリリース&デジタル配信スタート
続く、3作目の本作が第68回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞と、映画監督としてはまだ短いキャリアにもかかわらず、世界最高峰の映画祭を魅了してやまない俊英ミシェル・フランコである。36歳という若さでありながら“人間”を深く抉り出す、研ぎ澄まされたその観察眼に私たちは驚きを隠しえない。
本作は、今日最も注目されている終末期医療をテーマに、“看護師”と“患者”という“親密な他人”の関係性をあくまでリアルに定点観測のごとく冷静に映し出す。監督自身の体験談から紡ぎだされた絶対的説得力のある脚本、一方で、作品全体に漂う決して説明的ではない静謐な余白は、観る者に挑発的なまでにあらゆる感情と憶測をもたらす。そして、想像をはるかに超えたその “命のゆくえ”は私たちに、美しくも強烈な余韻を残してくれるにちがいない。
親戚達は彼女が孤独を感じないよう毎日そばにいたが、本当に祖母の世話をしていたのは看護師だった。全くの他人である彼女は、突然祖母の身体的にも精神的にも近しい部分にやって来て、入浴・食事・おしめや尿袋の交換といった日々の不快で、時には恥ずかしくなるような仕事をこなしていた。
祖母と看護師という二人の女性は、合図やジェスチャーや言葉によって家族の他の誰にも分からないような関係を築き上げていた。家族の何人かはそれに不満や無力さを感じるようになり、二人の間に生まれた親密な関係には嫉妬さえ生まれるようになった。時にはそれが、子供達や孫達のけんかや口論にまで発展することもあったほどだ。
ほどなくして、看護師は祖母を精神的にもサポートするようになり、私達とのコミュニケーションの橋渡し役となった。
彼女は、祖母が午前3時に激しい苦痛の中で亡くなる最後の瞬間に立ち会った人物であり、葬儀への祖母の身じまいをした人物でもあった。祖母の娘達の誰一人として、死後硬直した身体を動かす術を知らなかったのだから。
6ヶ月間祖母の世話をした後、彼女はすぐに新しい患者の世話を始めることも出来た。しかし私達の家族との仕事は終わっても、彼女はまるでその寂しさと愛情を示すかのように私達を訪ねて来た。彼女の瞳には大きな悲しみが見て取れ、私達と同じ様に喪に服しているのがわかった。 彼女の訪問は私の心を動かし、次第に彼女自身の人生に興味を持つ様になった。彼女は私に私の知らない祖母の遺品を見せてくれた。彼女が祖母に会ったのはほんの数ヶ月だというのに、彼女が私達と分かち合ってくれた祖母の濃密な部分はそれは深いもので、彼女は私達家族の特徴や葛藤や特異性を理解するに至っていたのだ。
それでも彼女は、他の仕事に就くことはないという。これが彼女の人生であり、キャリアなのだと。そして彼女は、喪の気分を入れ替え再び他者の人生と繋がるために、また他の末期患者を探すのだという。
――ミシェル・フランコ
そのほかの主な出演作に、マイク・リー監督『MEANTIME』(84/未)、ウディ・アレン監督『世界中がアイ・ラヴ・ユー』(96)、ジュゼッペ・トルナトーレ監督『海の上のピアニスト』(98)、ティム・バートン監督『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(01)、ルイ・レテリエ監督『インクレディブル・ハルク』(08)、そして第87回アカデミー賞®作品賞にノミネートされたエヴァ・デュヴァネイ監督『グローリー/明日への行進』(14)などがある。
レイ・ウィンストンを主役にした『素肌の涙』(99)で監督デビューも果たし、この作品は英国インディペンデント映画賞やヨーロッパ映画賞などを獲得している。また、2010年スタートのTVシリーズ「ライ・トゥ・ミー 嘘は真実を語る」にも出演。最近では、第65回ベルリン国際映画祭で初監督賞作品を受賞したガブリエル・リプステイン監督『600 Miles』(15/未)や タランティーノ監督最新作『ヘイトフル・エイト』(15)などがある。審査員長を務めた第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、グランプリを受賞した『父の秘密』(12)のミシェル・フランコ監督へトロフィーを授与している。本作では主演を務めたほか、製作総指揮としても携わっている。
1979年、メキシコシティ生まれ。1998年より短編作品を製作・監督し、数々の賞を受賞。 初の長編『Daniel&Ana』(09)が第62回カンヌ国際映画祭監督週間に選出され、2作目『父の秘密』(12)で、第65回同映画祭「ある視点」部門グランプリを受賞する。本作は長編映画としては3作目となる。また、本作の後に妹と共同監督の『A los ojos』を完成させた。監督以外にも、プロデューサーとして携わった『Desde allá』(15/未)は、第72回ヴェネチア国際映画祭において金獅子賞を受賞した。
1960年、ベルギー生まれ。写真を学んだ後、ベルギー国立高等舞台芸術学校で映像を学ぶ。短編作品を監督するが、しだいに興味は撮影へと移る。第52回カンヌ国際映画祭グランプリに輝いたブリュノ・デュモン監督『ユマニテ』(99)の撮影を担当し、高く評価される。12年、キャロリーヌ・シャンプティエとともに撮影を担当したレオス・カラックス監督『ホーリー・モーターズ』ではシカゴ国際映画祭撮影賞を受賞した。その他代表的な作品には『フランドル』(06)、『最初の人間』(11)、『ヴィオレット―ある作家の肖像―』(13)などがある。